モリスの詩

by William Morris
翻訳:城下真知子 2022/2/10

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  ■死者に寄せて A Death Song      1887年12月

  (血の日曜日のデモで被った怪我がもとで亡くなった男性の葬儀で、歌われた)


 東から西から、此処に集まってくるのは誰か?
 ゆっくりと厳しい顔で集まってくるのは誰か?
 金持ちが放つご託宣に耐えてきたわれら
 彼らに、目を開けて見よと返してやるのだ。
 一人も、一人も、まして何千人など、殺させるものか
 われらすべてを越えて行け、白日を暮れさせるつもりなら。

 苦しい稼ぎの暮らしを、彼らに委ねていた
 われらのパンと引き換えに、彼らは安逸を手にした
 学んだ悲惨を訴えようと出かけたが
 無言で帰ってきた、死者を抱いて。
 一人も、一人も、まして何千人など、殺させるものか
 われらすべてを越えて行け、白日を暮れさせるつもりなら。

 彼らが学ぶことはない。聞く耳を持ってなどいない。
 運命の女神の眼から、顔を逸らし、
 華やかな大広間は、暗い空を締め出す
 だが、見よ! 死者が門を叩いている。
 一人も、一人も、まして何千人など、殺させるものか
 われらすべてを越えて行け、白日を暮れさせるつもりなら。

 われらの監獄を破る証しが、ここにある。
 彼は嵐の中で、囚人の休息を勝ち取った。
 だが、曇りの夜明けに、太陽は昇り
 われらに、勝利を勝ち取る日の務めをもたらす。
 一人も、一人も、まして何千人など、殺させるものか
 われらすべてを越えて行け、白日を暮れさせるつもりなら。

  ■三月の風が告げる  The Message of the March Wind

                     1891年発表の『Poems By the Way』より


 春の日は晴れやかで、大地が見つめている
 太陽の顔で、恋しい人のまなざしで
 日は長くなり、希望は緑の野原を
 抱きしめるように広がり始める

 丘を越えてさまよえば、かぐわしい香り
 鳥と花と、野原の生き物のあいだに
 愛は愛と出会い、憂いの影は差すこともない
 すべての物思いは、癒された。

 村から村へ、丘を越え、野畑のそばを
 長い春の日を、遠くまでさまよえば
 いつしか村のはずれに夕闇が迫り、
 灰色の壁に、教会がそびえる。

 黄昏に風がそよぎ、前には街道の白い道
 牛囲いから、麦わらが告げ
 月が輪郭を現わし、星が輝きだす
 尖塔の風見鶏は、疑うように揺れている。

 街道を横切り、橋を越えるのは
 テムズ川に、そして海に流れ込む小川
 もっとそばにお寄り、恋しい人、
 今宵はあなたと私に悦びを与える。

 だが、いつでもそうなのか? 聞いておくれ
 三つの原野の向こう、彼の地で語られることを
 新月が上がり、もし三月の空が曇れば
 丘の上から、ロンドンの煌めきが見える。

 耳を澄ませ、楡を揺らす風に! ロンドンから吹く風だ
 伝えるのは、金と、望みと、不安、
 助けにはならぬ権力と、その知恵について
 だが、教えはしない、最悪のことも最善のことも。

 金持ちについて告げるだけ、それも、奇妙な話だ
 彼らがどれだけ物を持ち、渇望し、どれほど深く広く掴んだか
 そして、いかに生き、いかに死んだか。彼らには
 地球とその栄光は、気にもならない重荷だった。

 聞くがいい! 三月の風が人々について語ることを
 そこに暮らす人々の、恐ろしくも憔悴した人生を
 我らとその愛が、そのなかにあれば
 愛情は枯れ、あなたの美貌もかすむ。

 我らがゆったり愛すこの土地は
 遥かな天国のようで、彼らには届かない
 うねる野原も、なんの楽しみでもなく
 彼らの灰色の家にも、代々受け継ぐ話はない。

 歌い手たちは唄い、造り手たちは建て
 塗り手たちは、その喜びを思い思いに創ってきたが
 誰のために、何のために、世界は金ぴかに仕上げられたのだ?
 すべてこれが、漆黒の闇夜のためだとしたら。

 何のために、どれだけ長く、耐えるというのか?
 これからも幾度も、物語は語られるのか?
 暗闇のなかで、誰も求めない希望がかくれんぼをし
 嘆きと悔恨のなかで、世界は年老いていくのだろうか?


 恋人よ、宿に戻ろう、灯火と暖炉の宿に
 楽師が奏でる懐かしい曲と、滑るダンスの足音に。
 そこには、束の間の休息と楽しみがある
 きっと、蜂起の明日は心地よい。

 宿に向かえば、恋しい人よ、うしろから風が吹き
 今夜の最後の話を、聞かせるだろう
 春の日の言づてが、ここで我らを見いだした
 誰も求めなかった希望が、光を帯びる

 真冬の種が、無視されても死なないように、
 雪の下に眠る、緑の秋播小麦のように、
 気づかぬ愛に、不意に気づくかのように
 腰帯の下で、いつのまにか育つ赤子のように

 人々の希望は、いまや芽吹き育つ
 その前には、闇も恐れも消え失せ、
 知る知恵のすべてを学べと、告げる
 我らを見つけ、手助けし、聞けと告げる。

 それは言づてを持ってきた
 「明日、蜂起せよ。疑いと闘いに向かって進め
 希望に希望を重ね、悲しみに悲しみを重ねよ
 そして、短い暮らしに人の愛を求めよ」

 ごらん、懐かしい宿、灯火と暖炉の火、
 そして楽師の馴染みの曲と、床を滑る足音
 そのうち、宿は静まり、休息と希望が支配する
 そして、明日おこなう蜂起は、心地よい。


  ■日は来たる The Day Is Coming

                    1891年発表の『Poems By the Way』より


若者よ、ここへ来て聞くがいい
伝えるべき話がある
素晴らしい日が、皆が楽しく暮らせる日が
来るのだ。

ある国の話だと思ってくれ
海の真ん中にある島
来たるべき日には
人はそれをイングランドと呼ぶ

いまだ来ていない日だとはいえ
千に一つ以上の希望が
明日には、きっとあるに違いない
懐かしの故郷に、喜びが訪れるときが


笑わずにお聞き、この不思議な話を
なぜならその頃には
イングランドのすべての民が
惨めな暮らしをしなくなる

そうなれば人は働き、熟慮する
わが手が創りだすことを喜び
夕べには、立てないほど疲れ果て
帰り道を辿ることもない

その日が来れば、
人は働き、恐れなど持たぬ。
明日の稼ぎが足らないと恐れ
飢餓にさいなまれることもない

不思議と思うだろうが、言って聞かせよう
そのとき、もう喜びはしない
仲間が落ちこぼれることにも
仲間の仕事を奪えることにも

そのときから、獲得したものは
確かに労働者のものだから
それに、種を蒔かなかった者が
刈り取りだけをすることはないのだから

奇妙で素晴らしい正義ではないか!
だが、いったい誰のために、集めた利益なのか?
我々のためだ、仲間一人ひとりのためだ
誰も無駄に働きはしないから

そのとき私のものも君のものも、我々のものとなる
それ以上を望む者は、誰もいない
無駄のために仕えた金持ちは
友に奴隷の足枷を嵌めるだけだったのだ


いったいどんな富が残されるのか
誰も金(きん)を集めなくなれば
奴隷市で友を買い
売られるものを嘆くこともない

いや、愛すべき街なみの他に何が残るのか
丘の上の小さな家と
森と荒野の美しさと
耕す楽しい野原が残る

幾多の伝説の故郷
雄々しき者たちの墓
学者は不思議を窮め
詩人は頭を韻文で溢れさせ

画家は驚嘆の筆を振るい
楽士は胸を打つフィドルを弾き
聖歌隊はバンドと音楽を奏でる
皆が当たり前のことをしているだけ

なぜなら、これらすべては我々のもの
誰も、足らないと嘆くことはない
生活の苦労も、勝ち得たものも
分かち合うのだ、公平な世の中では


ああ、来るべきなのだ、その日が!
だが、今日の状況はどうだ

我々が住んでいる時代には
命が削りとられているではないか?
違うと言うなら、いったい何を待っている?
言うべきは以下の言葉だけではないか
我々はやりとげる
そして敵は、夢に躍らされて か弱いではないか?

なぜ、何を、待っているのだ?
その間にも兄弟は死んでいるというのに
天国からのすべての風が
仲間を連れ去って通り過ぎるのに

彼らがどれだけ我々を辱めればいいのか
みじめに密集して暮らす
不快な街のあわれな幽霊たち
金に押しつぶされた飢餓の街

背徳の暮らしのなかで働き
惨めに死んでいく
強大な母の息子たちよ
イングランドの誇りの奴隷よ

それらは去った。もはや取り戻せはしない
呪いを込めても、魂にも救えない
それでも、労働者は何万と押し寄せる
彼らは良くなるのか、それとも悪くなるのか?

急いで答えるべきなのだ、
ドアを広く開けて、我々が。
金持ちは恐怖で急いでいる
貧乏人の希望はゆっくりやってくる

惨めな者の声にならぬ怒り
そして、彼らの知恵なき不平
声と知恵を与えなければならない
潮流が変わるまでに


さあ、来るのだ、すべてが呼んでいる
生ける者も死んだ者も
そして飛沫を上げる混乱のなかで
かすかな光が煌いている

さあ、来るのだ、いっときの猶予もない
暢気な態度は、捨てていけ
良き日が良きものをもたらすまでは
信念だけに価値がある

来たれ、唯一の闘いに
そこでは誰も負けることはない
たとえ死んだとしても消えたとしても
それでも、偉業は勝利する

さあ、来たれ、いっときの猶予もない
少なくとも、我々は知っている
その日は、夜明けは、やってくる
我が旗はひるがえり、進む


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