抄訳:モリスの手紙
Letters by William Morris
出典:The Collected Letters of William Morris Edited by Norman Kelvin
翻訳:城下真知子(
読みやすいように改行しています

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 1887年  激動のなかで その3 
             ーー直接行動を重んじるモリス



 
 [
訳者から]

 モリスが所属する社会主義者同盟(SL)は、社会民主連盟(SDF)でのハインドマンの独善的運営と議会選挙への依存を嫌って1884年12月に結成された。だが、その組織も、社会の激動の中で揺さぶられ、3年も経たないうちに再び分裂の兆しを見せた。
 いっしょにSDFと袂を分かったバックス、メーホン、エレノア・マルクスとエーブリング夫妻たちは以前批判していた方針を翻し、議会選挙に候補者を送り出すことを求め、モリスたちと対立していった。モリスにすれば、これはSLの基本方針の変更だった。

 今日の私たちから見れば、議会選挙に関わるのは当然だと思うかもしれない。だが、19世紀のイギリスでは、一定の資産を持つ男性にしか選挙権はなかった。しかも二院制の片方は貴族院で、貴族が世襲で議席を得ていた。(何回か選挙法改正が行われつつあったが、21歳以上の男性すべてに選挙権が与えられたのは20世紀の1918年になってからである。ちなみにこの年には30歳以上の女性にも選挙権が与えられた)。しかも、生活に追われる農民や労働者には立候補する余裕もない。したがって、議員に選ばれるのは貴族か金持ちで、国会は、彼らが思いのままに国を支配するための機関として機能していた。

 こうした中で、議会選挙に依拠するのは上流・中流階級に取り入ることにしかならない、労働者や市民に直接的に社会変革を訴える宣伝活動を行なうべきだというのが、モリスの考え方だった。

 1887年5月のSLの年次総会を前にして、議会派とモリスらとの対立は深刻さを増していく。

 なお、〈〉内は城下の注釈。

  ■1887年5月5日付 ジョン・リンカーン・メーホンへの手紙 
                              ハマースミスにて

親愛なるメーホン

 総会についての君の楽観的見解には賛成できない。じっさい、分裂はありうる。私たちの決議が採択されたら、君たちは同盟の活動を手伝わなくなるだろうし、君たちの決議が採択されたら、優秀な仲間の中には脱退する者もいるだろう。私自身に関して言えば、名前だけが残ることとなるし、おそらくそのうちすぐに追っ払われてしまうだろう。そもそも、誰も心から信じてはいない「段階的手段」一式を掲げるような団体に、私が所属できるとは考えられないからね。

 いずれにせよ、この議会主義的動きの結果として一つ確かなことは、機関誌『コモンウィール』が消え失せることだ。君は軽い気持ちで、そんなことは問題じゃないと言うだろう。でも、それには賛成できない。どんな機関誌を創っても、結局、前と同じところまで来れば詰まってしまうだろう。

 自分たちは集産主義〈collectivism アナキズムとの対比で使われている〉だと宣言するというが、そんな馬鹿げた名称は誰でも好きなように解釈できるわけだから、真剣に反対する者もいないだろうよ。

 君は、議会主義を選択する支部としない支部があっていいと言うが、そんなことはナンセンスだ。(もし決議が採択されたら)新しい評議会〈執行部にあたる〉は、議会主義的なプランを打ち出すに違いないし、それを受け入れない支部はすべて速やかに追放されるだろうからね。彼らの観点からすれば、それも当たり前だ。同盟全体・全メンバーが、議会主義的活動の必要性を確認する決議に縛られる。でも、それはこれまでの同盟の政策の明らかな変更なのだ。しかも、これはSDFの方向への変更だ。そういう変更を行なうなら、同盟とSDFが別々の組織として存在する必要があるとは思えない。

 だから、妥協は可能だと思えないので、君たちが敗北すればいいと思う。〈春に支援に行った〉ブライズでの成功についてだが、炭鉱労働者がどの団体に属するか、それとも何にもしないかは、もちろん、彼ら自身が決めることだ。結局のところ、私が危惧しているよりも良い方向に進むかもしれないがね。

                           敬具
                           ウィリアム・モリス

  ■1887年5月17日 ジョン・リンカーン・メーホンへの手紙 

親愛なるメーホン

 誰も私を同盟から追い出したがっているとは思わないよ。でも、まあ、それはそれでおいておこうじゃないか。

 バックスは、クロイドン支部の決議が採択されたら新しく選出された評議会はただちに議会主義的緩和政策の作成に臨むことになると、私に明言した。それならそれを決議に盛り込むべきだと私が言ったら、彼は同意して、可能ならそうすべきだと言っていた。クロイドン提案の決議にせよ、君の決議にせよ、採択されれば議会主義的行動を宣言する以外の結末になるとは思えない。

 いいかい、週刊『コモンウィール』の第1号〈注〉を開けてみれば分かるが、この〈議会利用の〉問題について当時の私の見解が載っている。そこにバックスも署名していて、同盟の誰もその件に疑問は挟まなかったのだよ。私は今もその立場をとる。(以下略)

〈注〉
 1886年5月1日付の『コモンウィール』1頁には、社会主義者同盟の方針がモリスとバックスの署名入りの『論説』として掲げられている。
 それによると、同盟の目的は、ふさわしい機会が訪れた時に行動できるように、教育し組織化することにあり、その行動の目的は労働者が生産手段を手にすることであるとしている。さらに、新しい社会が確立されるまでに過渡期が存在せざるを得ないが、道を外れるような妥協的政策は国家社会主義を導くだけであり、原則を貴ぶ者のすることではないとし、『コモンウィール』誌は「着実に国際的革命的社会主義の原則を広め続けるし、議会主義的改革方法に手を染めることにはすべて反対である」と宣言している。

■1887年5月19日 ジョン・ブルース・グレージャーへの手紙 

親愛なるグレージャー

 同盟の将来や、革命的党が国会をどう取り扱うかの基本的立場についての君の見解にはまったく賛成だ。

 総会をどうするかについては、もちろん、何とかして分裂は避けたいと思っているし、みんなもそうだと信じている。だから何らかの暫定的協定が見つけられたらと思う。私自身は、本質的じゃない事柄について杓子定規にこだわるつもりはないから、安心してくれたまえ。
 とはいえ、同時に、譲ることのできない一定の信念もある。(中略)
 
 私の立場は分かってくれたと思うが、要点をまとめよう。

 1)いかなる状況下でも、私は具体的宣伝行動をあきらめない。
 2)同盟の団結を守るためにあらゆる努力をする。
 3)国会は、敵階級の代弁者として取り扱うべきだ。
 4)一定の明確な目的の下、抵抗者として国会にメンバーを送らざるを得ないときも
   ある。
 5)だが、いかなる場合も、彼らが国を統治し続けるのを手助けしない。
 6)それゆえ、国会での決定を求めて一時的緩和政策を提案すべきではない。
   なぜなら、それは彼らが我々を統治するのを助けていることになる。
 
 7)そういう政策を取ると宣言するなら、同盟は私が考えていた存在ではなくなる
   わけで、私は同盟の外で出来ることを探さざるを得ない。
 8)でも、そこまで行かないなら、私は内部で働く。
 
この手紙は仲間の誰に見せてくれてもいい。その一人ひとりに、友愛のあいさつを送る。

                      いつも、君の
                      ウィリアム・モリス


■1887年5月23日 ジョン・グラスへの手紙 

                             ハマースミスにて
親愛なるグラス

 もちろん、君の言うとおり、自分から縛り首の縄に首を突っ込むようなまねはすべきではない。人が殉教に走るのを認める気はまったくないよ。〈総会では会えないとしても〉今年中にロンドンに出て来た時に、会えるといいな。(中略)

 
 議会主義者について、そして社会主義者が彼らをどう扱うべきかについて、私の意見をはっきりさせよう。確かに、社会主義者も十分力量が付けば国会にメンバーを送ることがあるだろう。それ自体は問題ではない。現「社会」を生きながらえさせる緩和策を講じて統治する組織の一員としてではなく、抵抗者として国会に出るのだということを自覚している限りは、問題ない。でも、多くのメンバーは、社会主義に公然と敵対する議会という機関の腐臭に影響されて、そういう間違いにとらわれていくのではないだろうか。だから、私は、党が育つ過程で訪れる議会参加の時期(明らかにそれは今よりずっと遠い先のことだが)を恐れているのだ。

 それに、私は、党の議会主義的分野の活動は責任が持てないと拒否する社会主義者、原則的グループが常に存在するべきだと思う。わが同盟こそが、現在そういうグループを体現しており、他方、議会主義の側の萌芽はSDFであり、ファビアン協会であり、労働組合だ。いったいなぜ、私たちの方針とそういう団体の方針とをごちゃまぜにする必要があるのかね。

 そういう意見――呼びたければ感情と呼んでもいい――は、いずれにしても存在しうるし、その時々で組織として形成されるのは当たり前だ。だから、原則がどうしても団体にそぐわないと疑問視するなら、組織を分裂させるのではなく、現在存在している〈議会主義方針を取る〉他の組織に加盟すればいいではないか。私はそういう他組織にはまったく寛容な気持ちでいる。わが組織内部に持ち込まれない限り、問題ない。

 だが、内部に持ち込まれたら、同盟は遅かれ早かれ分裂する。なぜなら、繰り返すが、非議会主義的な気持ちは完全に抑え込めるものでは決してないからだ。

 これは、集産主義かアナキズムかという問題とは何の関係もない。私はアナキズムの原則には絶対賛成できない――もっとも、多くのアナキストに個人としては共感するし、イギリス人として政府の干渉や中央集権化には当然にも大嫌いだが、ドイツ的パターンで自分を形成してきた友人たちの中には、その嫌悪感が足りない人がいるようだ。いずれにしても、宗教や家族問題について公言するのは不可能というよりも賢明ではないと思う。(中略)
 

 この大変な危機の中で私がどうふるまうべきかについてだが、言えるのは、ただ、誰に対しても少しも嫌な気持ちを持っていないし、現在の問題について最善を尽くして平和的な解決を見出すように、いや、回避策を忠実に真摯に受け入れてもらうためにさえ取り組むということだ。でもね、永遠にがみがみ言い続けるわけにはいかないのだよ。争いごとは大嫌いだし、そういう状態では私は仕事に打ち込めない。

 信念としては分裂を避けるべきだと思うが、同盟を追い出されるかもしれない。でも、強制的にそうされない限り、自分からそうすることはないから安心してくれたまえ。とはいえ、評議会から退いて、自分の支部その他に専念せざるを得ないかもしれない。それは今までも楽しい経験だったし、たいてい希望に満ちたものだったしね。

 君の支部の誰でも、もっと私の意見を知りたい、立場について聞きたいという人がいるなら、遠慮なくこの手紙を見せてくれていい。
 
 元気で。家族によろしく。支部のすべてのメンバーにも、よろしく伝えてくれたまえ。
 
                         真心を込めて
                         ウィリアム・モリス

■1887年5月27日(?) ジョージアナ・バーンジョーンズ(?)への手紙 

 同盟内の各派が和解するように、同盟がもう1年存続するように骨折っている。つらい仕事だ。豚追いのなかでも一番ひどい仕事のようなものだ。それに、私も時々かんしゃくを起こす。本当に途方に暮れるほどいらつくよ。普段ならまったく正直な男たちで、情熱的で自己中心とは縁遠く、大抵の人よりは賢いのに、そんな男たちがこんなにも争い合うとは。おまけに、ほとんどの場合、個人的にはみな良い友だち同士なのに。

 
 [
訳者から] 〈第3回年次総会〉

 社会主義者同盟(SL)の総会は5月29日に開催された。バックスが率いるクロイドン支部は、選挙に議員を立候補させるべきとの動議を提出した。動議は17対11で否決されたが、敗北したバックス、メーホン、エレノア・マルクスとエーブリング夫妻たちは評議会メンバーとして続投することを拒否した。欠員はアナキストが占めることとなった。議会参加をめぐる対立は、その後1年間、引きずることとなる。
 この同盟内での対立のさなかも、モリスは連日の街頭演説、執筆活動、古代建築物保存協会の活動などを精力的に続けている。

 対立を抱えたままの活動は、政治の世界に特有の、権謀術策や疑心暗鬼が渦巻くき、政治が苦手なモリスをさいなむ。秋に入って、若いメーホンから来た手紙に対して、モリスが珍しく怒りと皮肉を隠さない返事を送っている。文面から察して、恐らくメーホンは、モリスがメーホンの悪口を言ってエジンバラで孤立させたと非難したようだ。

■1887年9月21日 ジョン・リンカーン・メーホンへの手紙 

親愛なるメーホン

 君はある意味とても愚かな若者で、自尊心のかたまりだね。さもなきゃ、君に腹を立てているところだ。でも、君とはずっと本当に友だちだったし、それに最初から君のことは何でも知ってきたし、必要以上の期待はしたことがないから、君のけちなやり方が驚きであるかのようにふるまうのはフェアじゃないだろう。だから、君をこれまでより悪くは考えていないという証しとして、君に返事を書く。ただ、君は、考えていた以上に少々喧嘩っ早いという気はするがね。

 最後に行った時以来、私はエジンバラの誰にも手紙を書いたり連絡したりしていない。最後に訪ねた時も、その時点では君は今ほど偉大な人物でもなかったから、君の名前は口に上っていなかったはずだ。

 グレージャーとは、その時々に手紙のやり取りはあるが、私も彼も君に言及した覚えはない。少し前に受け取った手紙で彼が書いているのは、私たちの多くが感じていること――「スコティッシュ土地・労働同盟SLLL」の名を押し込もうとすることへの不快感だ。私は、エジンバラの人々が一定の方向に駆り立てられているのだから、気にするなと彼に忠告した。それ以外は、私たちのやり取りのテーマは、同盟の一般的問題と彼自身の支部〈グラスゴー支部〉のことだ。私の方は、君でも誰でも読みたければいつでも手紙を読んでくれてかまわない。

 だからね、メーホン、君への敵対を引き起こしたのは、おそらく君自身のマナーややり方が原因だ。じっさい、今までも気づいていたが、君は善良な性格ではあるが、どうやらいつも人を喧嘩させる才能を持っているようだ。もちろん、わざとではないだろうが。

 いずれにせよ、私が言ったことが関係しているわけではまったくないし、君の友だちに私は何も言っていない。もちろん、こちらで仲間どうしの会話で君の批判をしたことはある。ひょっとして、自分はまったく批判とは無縁だなどと思っていないだろうね。

 『コモンウィール』誌での君の記事の扱いで私に不満があるとも思えない。君が告知や宣伝のために送ってきたものは何でも載せているし、SLLLの宣伝も君の満足のいくようにしてきた。 だから、いいかい、君が良いと思うかどうかはともかくとして、私は一番痛い批判は君に面と向かって言っている。(中略)

 さあ、君のような威勢の良い若者に似合わぬ謂われなき疑いなどは横に置いて、敵との戦いに最善を尽くして、『コモンウィール』誌を出来るだけ売ってくれたまえ。君が言うように、君であれ誰であれ嘘で運動を丸め込めるなんて思うとしたら馬鹿げているからね。

 君が送ってきた記事は重要問題にしては短いし荒っぽいと思うが、その限りでは正しいし、提案には賛成なので、掲載する。

 ところで、今考えてみると、総会以降、チューク〈SLLLエジンバラ支部書記長〉には手紙を出している。でも、問題になるような箇所は何もない。また君の疑念が湧くといけないので付言しておく。もし見せたいなら、この手紙も、これまで君に書いたどの手紙も人に見せてくれていい。

 成功を祈る。それに冷静さも。
                         友として
                         ウィリアム・モリス

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