『古建築保存協会第12回総会講演』の要旨をまとめると…… |
古い建物の本質的な存在意義は、過去の芸術や暮らし方の情報を伝える遺跡ということだ。だからわが協会の第一の任務は、その破壊を防ぐこと。たとえ歴史的知識がなくても、人が古い建物を美しくロマンティックだから破壊に反対だと思えば、それは十分りっぱな反対理由だ。美を見い出すことができない国民は、美を生み出すことはできない。古い建物はわれわれだけのものではない。われわれは未来の管財人にすぎない。ちなみにロマンスとは、歴史を把握する能力、現在のなかに過去を見い出す力だ。 第二の任務は、修復と称した、現代の有害な改築の試みを防ぐことだ。これは「修復」という名の破壊だ。中世後期の補修は、芸術家としての工芸職人と建築家が、伝統に基づいておこなってきたが、いまはそうはいかない。現代のシステムが職人を機械に変えてしまった。労働者は、時代の社会環境によって機械にされてしまった。残念ながら、機械には、美しく繊細で独創性に満ちた仕事を受け継ぐことはできない。 ほんの少しの手入れと忍耐で、古い建物はもう五百年もつ。これから先百年ほど、急激な変化が起きて、現在の状況すら認識できなくなることだろう。だからこそ、われわれはわれわれの義務を果たし、あとに続く者に、彼らの義務をまかせよう。 ウィリアム・モリス 1889年 |
目次 (翻訳者がつけました) |
〇美しい古建築の破壊は恥だ 美とロマンスの無視は、進歩ではない 〇美しくロマンティックな建物を破壊するというなら 強力な公けの理由が必要だ 〇われわれは未来の人々のための管財人 〇保存の名のもと、破壊につながる無知な試みが横行する 〇かっては伝統は具体的な形で生きていた いまは生活から切り離されている ―――― その1ページ 〇この劇的変化をわれわれは自覚しているのか 〇美しい古代建築は、日常的に芸術家として働く人々なしにはできなかった だが現代社会は労働者を機械に変えてしまった 〇現在と過去のあいだに横たわる深淵を理解しなければ 保存などありえない 〇人間の発作的愚行で破壊するのではなく、古代建築を修繕し保存し 自然の手によるゆっくりとした果てしない腐朽による死を迎えさせよう ―――― その2ページ |